- 税務調査対策のポイント
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税務調査を受けるにあたって、経営者としての心構えなどを次の1〜6に分けて解説していきます。
それぞれの項目で重要と必要になる箇所にはPointとしてまとめてありますので、特に注意深く読み進めるように心掛けてください。
内容に関し不明な点がありましたら、お気軽に当会計事務所まで問い合わせてください。
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1.税務調査の時期税務署の調査官はいつ来るのか
1 個人事業者の場合
毎年、個人事業者の所得税は3月15日、消費税の申告期限は3月31日とされています。税務署では、その申告書が提出される前に、次の①〜④の資料を集め、申告書と照合しています。
<申告書と照合する資料>
①利子・配当・給料・家賃などの支払者からの「法定資料」
②各企業の協力により集めた商取引の「一般収集資料」
③税務調査官が実際の調査で集めた「実施調査資料」
④一人ひとりの個人情報
Point 1 |
税務署は確定申告書の提出前に納税者のあらかたの情報を入手済み。 |
照合の結果、正しい申告が行われていないと思える場合は、電話や文書で説明を求め、修正申告や期限後申告となります。もしも、それに納税者が応じない場合は、税務署に来るように言われ、それでも確認できない場合、事業所まで調査官が来て調査が行われます。これが実地調査です。
2 中小法人の場合
税務署では、法人を次のように区分けして税務調査を行っています。
継続管理法人・・・・・ |
過去に多額の不正を行っていた会社 |
循環接触法人・・・・・ |
過去の申告に不審な点が多い会社など |
周期対象除外法人・・・ |
経理内容が単純で事業規模も小さい会社 |
一般的には実地調査は4〜5年に一度ですが、継続管理法人は3年に一度、周期対象除外法人は10年近く実地調査が行われないケースもあります。
Point 2 |
一度でも申告モレなどがあった場合は、3〜4年に一度の調査が行われるようになります。 |
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2.税務調査の種類税務調査にも様々な種類があります
税務調査は、国税局の査察部(マルサ)が裁判所の許可を受けて行う調査(強制調査)以外は原則として任意の調査です。しかし、法人税調査ではその任意の調査は次のように段階的に厳しさが違っています。
1 特別調査
税務署内での準備調査の結果、
① 多額の申告モレがありそうな場合
② 事業規模が大きく実態把握が必要な場合
③ 他の税務署と連携を必要とする場合
④ 取引先の不正に加担しているような場合
には、長期にわたり実地調査が行われます。これを特別調査と呼びます。
Point 3 |
調査には軽いものから厳しいものまであります。特別調査だと長期間調査官が会社に出入りします。 |
2 一般調査
特別調査にあてはまらない会社で、不審な点の解明や有効な資料の収集に重点をおいた調査を行う場合を一般調査と呼びます。なお、一般調査の最中に多額の不正の疑いがある場合は、特別調査となります。
3 書面照会による調査
申告書の内容に不審な点があっても、実地調査を行う必要がない場合は「お尋ね」という書面が税務署から送られてきます。これを「書面照会による調査」と呼びます。
4 強制調査
多額の税金を巧妙な手口で隠した場合に行われるのは強制調査です。国税局の査察部、いわゆるマルサが行う調査で、突然調査官が来て裁判所の令状をもとに調査が行われます。
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3.税務署が来るとき事前連絡があるかどうかで対応が違う
税務調査が行われるときには、
① 事前連絡が入る場合
② 事前連絡のない「アポなし」の場合
とがあります。法律上は、税務署に調査の事前連絡を行う義務はありません。従って、アポなしの調査が普通であると考えてください。
しかし、税務署では調査を行う場合、納税者に事前連絡をするようにしています。これは、事業者に調査への準備期間を与えることで税務調査がスムーズに運ぶと考えているからです。
1 税務署から事前連絡があった場合
税務署から「☓月☓日に調査にお伺いします」という連絡があったら、まずその日で良いかどうかを調べてください。
都合が悪ければ変更もできますが、特別な理由がない限り税務署の言うとおりにするのが原則です。
理由もなく調査を延期させると、調査官に良い印象を与えず、次回から事前連絡が行われなくなることもあります。
Point 4 |
税務署から電話があった場合は、調査官の氏名と担当部署を聞くこと。 |
Point 5 |
税務署から事前連絡が入ったら、必ず私ども顧問の会計事務所に連絡をしてください。 |
その際、調査に来る税務署の担当官の氏名、部署、調査日時を知らせてください。また、特に不安な点や相談しておきたいことなどがある場合は、事前に相談して下さい。そのときに調査を行う担当官の名前を聞いておいたことが役立ちます。税務職員の名簿から経歴などを調べて対応を練ることができるからです。
2 突然、税務署がやって来たら
多額の不正の疑いが持たれ、証拠いん滅が予測されるときに税務署はアポなしで事業所に来ます。そのときは、
Point 6 |
「調査には協力します。ただし、税理士が来るまで待ってください」と言ってください。 |
任意調査だからといって頑固に調査を拒否すると、調査官にさらに疑いを持たれます。ただし、調査官による不当な調査を避けるためにも顧問税理士の立ち会いを要求すべきです。調査の開始は税理士が来るまで待ってもらい、それまではムダ話もせず、毅然とした態度をとります。
Point 7 |
捜査令状を持っている国税査察官でない限り、納税者の許可なしで調査官は調査を開始できません。 |
3 社長や経理担当がいないとき
ともかく事業所の幹部が対応します。居留守と思われても不利だからです。そして、お引き取り願うのが一番賢明です。しかし、税務署側は調査を実行しようとするものです。そこで、社長と連絡がとれるならば、調査官と電話で打ち合わせをさせます。調査官に与えられている「質問検査権」は、事業所の代表者だけに質問を認めているわけではありません。
Point 8 |
法人ならば従業員にも質問されます。個人事業者であれば、事業専従者(代表者の家族)にも質問がされます。 |
しかし、あくまでも任意調査である以上、代表者や経理担当がいないのに金庫や机の引き出しなどを開けることはできません。
Point 9 |
調査官に応対する幹部は、自分が担当している仕事にはハッキリ答え、担当していない仕事については想像で答えないでください。 |
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4.税務調査の準備やはり事前準備をどれだけしているか・・・
1 実地調査の注意点
実地調査は、会社が申告した課税所得が適正かどうかを確認するものです。事業者として、実地調査の際に調査官の質問にきちんと答えられるように、日頃から「証拠書類」の保存を習慣づけておきましょう。
Point 10 |
証拠により、調査官が申告に持っている疑問に答え、疑いを晴らすことこそ税務調査対策になります。 |
Point 11 |
メモ書きや打ち合わせ資料など、誤解を招きそうなものには注意しましょう。 |
一方、調査に備え社内処理規定の基準を作っておきます。例えば、交際費の支出や従業員に対する金銭の貸出しがあった場合、その額や金利などが行き当たりばったりでは、調査官を納得させることはできません。
もし、調査の日までにそうした規定集の作成が間に合わなければ、支出の事実を証明できるものを必ず用意して対応します。
なお、税務調査で調査官が必ずチェックするのは次のような点です。
<税務調査のチェック事項>
①仕入れの水増し
②売上げのモレ
③固定資産や棚卸資産の動き
④源泉徴収のモレ
⑤消費税の処理状況
⑥借入金や貸付金、買掛金や売掛金
2 現金調査の注意点
税務署は現金に関して「大部分の取引きとつながり、しかも不正の手段に使われやすい」と考えています。次のような手順で調査が行われます。
Point 12 |
調査当日は現金残高を調べ、関係する帳簿類と照合されます。 |
一致しない場合は、帳簿記入に不審な点があると見られます。金庫などの中身も確認されます。不正発見の手がかりになる資料を探るのです。従って、次のことが特に重要になるのです。
Point 13 |
取引きの事実を説明できる契約書や見積書、請求書、領収書などは整理しておく必要があります。 |
<現金のチェック事項>
①領収証、集金帳などをチェックされます。
②営業取引以外の入出金は、それがどういう原因で発生したかをチェックされます。
③小口で支出する資金の期末残高の計上モレは、特にマークされます。
また、預貯金に関しては、金融機関ごとに得意先勘定、手形勘定、有価証券勘定などの振替関係が点検されます。
<預貯金のチェック事項>
①小切手の現物と入金票の摘要欄の記載がおかしくないか。
②預け入れと払い出しが同日のものについては、必ず理由が聞かれます。
③利息計算書と銀行からの通知書を調べ、利率から判断して別の預金がないか。
④借入金の裏付けとなる担保(預金)の存在。
⑤退職給与引当金と特定預金との関係。
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5.調査最中の対応基本は余計なことを口にしないこと
1 社長と経理担当者の態度
調査官の質問については、細かい数字は経理担当者が受け持ち、会社の業績や取引先との関係などは社長が答えるようにします。そうすることで協力的な姿勢を示すことができ、調査官に好感が持たれます。
調査官は百戦錬磨です。素人のふりをして、社長の話から売上状況を把握するケースがあります。実際は安い値段で手に入れて高く販売しているのに「なかなか手に入らない代物で、仕入れに苦労しています」などと調子に乗って話してしまうと、調査官は通常の仕入れ値と販売価格との差額を計算し、「かなり利幅がある。仕入れの水増しに要注意だ」と調査のポイントを把握します。あらぬ疑いを持たれても嫌なものです。
Point 14 |
余計なことは口にしないのが税務調査の鉄則です。 |
2 調査は“重箱の隅”をつつく
任意調査でも、必ず金庫や経理担当者の机の引き出しの中までチェックされると思っていた方が良いでしょう。金庫や机の引き出しには不要なメモ類が入っていたりするものです。特別なものではなくとも、調査官からメモの内容について聞かれてもすぐに答えられません。
Point 15 |
税務調査に備え、金庫や会社幹部のデスク周辺などは整理しておきましょう。 |
3 一般社員の対応
調査の前に社員にも取引先関係資料や契約書などの不備がないかを確認します。そして、自分の仕事以外のことを聞かれた場合、想像で話をしたり、自分の意見を述べたりしないことを注意しておくべきでしょう。
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6.厳しくなる消費税調査本番を迎える消費税調査
消費税は小売店などで買い物をする消費者にかかる税金です。従って、一般の事業者は国に代わって税金を消費者から預かっているだけで、事業者のフトコロは傷つかないのが原則です。消費者にすれば、預かったものはきちんと国に納めてほしいはずです。そうした消費者の期待を裏切る事業者が増えてくると、消費税自体に批判が集まる可能性があるため、税務署も消費税を息の長い税金に育てようと必死で調査を進めています。
Point 16 |
消費税調査はこれまで以上に厳しくなると予想されます。 |
事業者サイドも消費税調査に対して事前に防衛策を講じておく必要があるのです。
1 仕入税額控除の適用状況が狙われる
基準年度(前々年度)の売上げ(課税売上と呼ばれ、個人の場合は前々年の売上げ)が3千万を超えていなければ、免税事業者は消費税を納める必要がありません。しかし、3千万円を超える場合は課税事業者となります。このとき仕入れにかかった消費税は売上げの際にかけた消費税から差し引く(仕入税額控除)ことができます。
仕入税額控除の適用を受けるためには、帳簿とともに請求書等も保存しなければいけません。
逆に言うと、帳簿か請求書等のどちらかに記載の不備があった場合、仕入税額控除は認められません(仕入税額控除否認)。
Point 17 |
仕入税額控除が認められないと、納める消費税が格段に多くなってしまいます。 |
従って、いくつかの例外はあるものの、消費税に関しては、先に説明したとおり次の点が非常に重要なこととなります。
Point 18 |
請求書等と帳簿との両方を必ず保存してください。 |
2 請求書等のポイント
請求書等とは、売り主が交付する請求書や納品書、領収書などで、次の5項目が記載されているものを指します。
①書類の作成者の氏名または名称
②課税資産の譲渡を行った年月日
③譲渡した資産または役務の内容
④譲渡した課税資産の対価の額
⑤請求書等の交付を受ける事業者の氏名または名称
ただし、次のケースについては書類の交付を受ける事業者の氏名や名称が請求書等に記載されていなくても仕入税額控除は認められます。
①小売業、飲食店業、写真業、旅行業
②駐車場業
③道路運送法に規定されている一般乗用旅客自動車運送事業
Point 19 |
請求書等を紛失した場合、確定申告期限までに再交付を受けること(仕入税額控除が否認されます)。 |
Point 20 |
特に取引相手については必ず請求書等と照合されます。 |
3 帳簿のポイント
次の4項目の要件を満たすものを帳簿とすることができます。
①課税仕入れの相手方の氏名や名称
②課税仕入れを行った年月日
③課税仕入れに関する資産または役務の内容
④課税仕入れに関する支払金額
従って、伝票であっても上記の4項目の要件を満たす限り帳簿と考えることができます。ただし、単なるメモと変わりがないものは帳簿とは見てくれません。規則的に継続して記帳されていることが条件になります。